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退職一時金から企業型DCへの移管

退職一時金制度から企業型確定拠出年金(企業型DC)への移管

記事更新日:2024年12月22日

既にある退職一時金制度から企業型DCへの移管も可能

企業型DCの導入を検討する際、一番イメージしやすいのは、全く退職金制度がない企業に新しく企業型DCを導入するパターンですが、新たに導入する場合だけではなく既にある他の退職金制度から移行して導入することもできます。

確定拠出年金法において、この制度の移行(資産の移管)は認められており、過去、他の制度で積み立ててきた資産を企業型DCに移管することができます。

DC制度へ資産の移換を行う場合は、その詳細について規約に明記する必要があります。

このページでは、現在既にある退職一時金制度からDC制度への移行についてのポイントをご案内します。

 

1、単年度での移管はできず、4年~8年に分割して移管する

現行の退職一時金制度を見直し、その一部または全部を企業型DCに移管することができます。

移管することで生まれるメリットとしては、会社にとっては退職給付債務が減少する、従業員にとっては外部積立制度が確立するというメリットがあります。

制度移行日までの間の「従業員が退職一時金を受ける権利(いわゆる既得権)」をどのように企業型DCに引継ぎ、移管するのかは、規約に定めることになります。

ここでのポイントとしては、過去の権利を企業型DCに移換する場合、一度に全ての資産(受給する権利)を移管することはできません。

4~8年のいずれかで均等に分割して資産を移すことになり、法令上単年度での移換は認められていません。

なお、移換が完了する前に、退職等により企業型年金加入者の資格を喪失した場合には、未移換分を一括して移換します。 

退職一時金制度を採用している企業では、今まで計画的に全従業員の受給権の掛金を外部で積み立てをしていない、または積み立て不足がおきていることもあります。

そのため、移換に際して会社のキャッシュフローや資金繰りの面で問題がないかといった点も確認する必要があります。

 

2、移管する場合の算定のベースは自己都合退職での金額

既存の退職一時金制度から企業型DCに過去分を移換する場合、企業型DC導入前後の退職金規程により算定される自己都合退職金額の差額が移換上限額となります。

※退職一時金制度を全て廃止し、企業型DC制度へ全部移行する場合は、企業型DC制度導入後は退職金規程は廃止されることになり、移行日前日の退職金規程で算定される自己都合退職金額が移換上限額となります。

ここでの注意点としては、一般的な退職金規程では、定年退職や会社都合退職と比べると、自己都合退職で退職した場合には、一定の掛け率を乗じて定年退職よりも少ない退職金を支給する規定になっていることが多いです。

そのため、既存の退職金規程のまま移管すると従業員に不利益が生じることになる点です。

この移管で従業員に不利益が生じないようにするために、退職金規程を改定するなどの対応が必要です。

移管できる他の制度と期間通算

企業型DCへ移管できる制度は以下となります。

  • 確定給付企業年金
  • 中小企業退職金共済法の規定による退職金共済
  • 退職手当制度

なお、資産の移換を実施した場合は、他の制度を運用してきた事業主に使用された雇用期間が加入者等期間に通算されることとなります。

中退共からの移管は例外時のみ!

弊社にご相談が多いケースとして、従来、中小企業退職金共済(中退共)にて積み立てていた過去積み立て分を退職金規程の改定と合わせて、DCへ移管したい、というものがあります。

この中退共の移管ですが、全ての場合にDCへと移管ができるわけではなく、以下の特殊なケースでしか移管ができません。

現実的には、恐らく移管ができないケースの方が多いかと思いますので、中退共に既に加入されている企業様は中退共をどのように扱うかは1つ大きな論点になります。

 

■中退共から企業型DCへと移換ができるケース

1、中小企業でなくなった場合

中小企業退職金共済(中退共)は、中小企業の従業員の福祉増進や雇用の安定を図ることを目的とした、「中小企業のための」制度です。

そのため、事業の拡大によって、中退共の加入要件である中小企業に該当しなくなった場合には、他制度への移換が可能です。

このパターンでの中小企業でなくなるタイミングと会社が企業型DCを検討し導入したいと思うタイミングが合えばいいのですが、弊社での相談事例をみると、なかなかそういったタイミングがあうのはレアなケースと考えられます。

中小企業ではなくなると、従来は、新規に設置する確定給付型企業年金(DB)もしくは特定退職金共済(特退共)への移換のみしか認められていませんでしたが、法改正により企業型確定拠出年金(企業型DC)に移管が可能となりました。加えて、新設の制度でなくとも、すでに導入済みである制度への移換も可能です。

 

2、合併等の場合(M&A等により会社が吸収、合併されたり分割、事業譲渡等により従業員の労働契約が継承される場合)

もう1つのケースもかなり特殊なケースです。これは、中退共を既に実施している企業と企業型DC制度を導入している企業が合併した場合、2つの制度のグループがある場合には、いずれか一方の制度に統一することができる、という特殊なルールになります。

2社が合併後、一方の会社で導入していた企業型DCのみを継続し、中退共は廃止するといった場合には、中退共から資産を移換することができます。

見て頂くとわかる通り、移管できないことはありませんが、極めてレアなケースです。

弊社での相談事例をみると、中小企業の規模である企業が企業型DCの導入したい意向で相談があるケースがあるため、1のパターンは使えません。

また、2のパターンであっても、例えば2社合併のタイミングでちょうどA社は中退共、B社は企業型DCに加入しているようなケースがまれであり、そのタイミングで相談があるケースも極めて少ないと言えます。

結論としては、一般的に中退共を導入している企業では、中退共から企業型DCへと資産を移管することは、要件が合わないことが多く現実的ではない、といえます。

関係条文:確定拠出年金法施行令(第22条)抜粋

(他の制度の資産の移換の基準)

第二十二条 法第五十四条第一項の規定による資産の移換の受入れは、次に掲げる資産について行うものとする。

 移行日の前日において在職する使用人の全員が移行日の前日において自己の都合により退職するものと仮定した場合における当該使用人につき移行日の前日において定められている退職給与規程により計算される退職給与の額の合計額

既にある退職金制度は改定した方がいいのか?

既に退職金制度がある企業が、新たに企業型DCの導入を検討する際、まず検討するべき点としては、会社が掛け金の補助を行う仕組みにするのかどうか?という点です。

既存の退職金制度があるということは、既に社員のために一定の退職金のための積立を行っているものと推測されます。

そのうえで、さらに企業型DCにて、会社の掛け金を増やすのか、それとも総額の人件費は変えずに仕組みを変えるのか、という点が検討のポイントになります。

例えば、経営陣の考えとして、既存の退職金制度の支給水準が低いと感じており、退職金の水準を上げたい、上乗せしたいということであれば既存の退職金制度はそのまま維持し、新たに企業型DCを上乗せの制度として導入する、というパターンもあります。

一方で、退職金の水準自体は変えたいわけではなく、企業の負担は極力変えずに支給方法を既存の退職一時金から企業型DCに変えたいのであれば、既存制度の移管を検討することになります。

このあたりは、企業型DCにおける制度設計、特に掛け金をどのように拠出していくのか、という部分とも関わってきます。

企業型DCの掛け金の設定については、以下の記事で詳しく解説していますので合わせてご案内致します。

企業型DCの掛け金設定方法について詳しくはこちら

企業型確定拠出年金(401k)のご紹介

2024年時点の企業型確定拠出年金の加入状況

企業型確定拠出年金(企業型DC)は、企業が従業員の老後資産形成を支援するための制度として広く利用されていますが当初は大企業のみが導入するケースが多かったといえます。

企業型DCの制度ができた当初、企業型DCの導入支援はメガバンクをはじめとした大手金融機関がメインとなっていました。

大手金融機関としては、企業型DCの導入支援及び導入後の運営管理の手間、費用対効果を考えるとそれなりの企業規模でなければ事業として成り立たない、という現実的な問題がありました。

そういったこともあり、制度ができた当初は企業型DCの導入先が上場企業をはじめとした大企業のみに限定されていた実態があります。

しかし、法改正などで企業型DCの導入が以前に比べればしやすくなった影響もあり、ここ最近は、SBIベネフィット・システムズのような小規模企業に対しても積極的に導入支援を行う企業がでてきています。

さらに、社労士や税理士、FPの一部で導入サポートを対応することができる人が徐々にでてきたこともあり、中小企業への導入が進んでいます。

厚生労働省の「確定拠出年金統計資料(2024年3月末)」によれば、企業型DCの加入者数は約830万人、実施事業所数は約52,033事業所に達しています。

 ※資料引用:厚生労働省「企業型年金の規約数等の推移(規約数、事業主数、企業型年金加入者数)」

 

※資料引用:厚生労働省「企業型年金の規約数等の推移(規約数、事業主数、企業型年金加入者数)」

 

企業型DCの導入は、企業にとっても従業員にとっても多くのメリットがあります。

企業側は、退職給付制度のコスト管理や運用リスクの軽減が可能となり、従業員側は自己責任での資産運用を通じて将来の資産形成を行うことができます。

また、税制上の優遇措置も受けられるため、双方にとって有利な制度と言えます。

一方で、企業型DCの導入にはいくつかの課題も存在します。例えば、従業員への投資教育の実施や、適切な運用商品の選定、運営管理機関の評価などが求められます。

これらの課題に対応するため、厚生労働省は企業型DCの運営状況の確認や、事業主に対する報告書の提出依頼などを行っています。 

政府の方向性として、投資に対する優遇税制をとっていることからも、企業型DCは日本の年金制度において今後ますます重要な役割を果たしていくことが予想されます。

また、その流れに乗り、企業型確定拠出年金の導入企業数は年々増加傾向にあります。今後も、制度の改善や支援策の充実を通じて、さらなる普及が期待されています。

 

弊社では、経営者や人事担当者の方からの以下のような相談をお待ちしております。

  • 企業型確定拠出年金の導入のご相談
  • 既存の退職一時金制度の改定、移管のご相談
  • 退職金規程の改定のご相談
  • 中退共からの移管、中退共制度の廃止のご相談

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