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就業規則と求人票の注意点

就業規則と求人票の注意点

記事更新日:2024年10月2日

  • 就業規則の規定と異なる条件で求人募集はできるか?
  • 求人条件と給与規程の待遇が違う場合はどう対応するのがいいか?
  • 既存の給与テーブルでは求人者の希望と合わない場合はどうするか?
  • 特定の人だけ就業規則と異なる待遇で求人することは可能か?
  • そもそも就業規則の内容が古くて求人条件と実態が違う場合は?

このページでは、人事担当者や採用担当者の方が考える上記のような、求人条件と就業規則に記載された労働条件について解説するページです。

人材不足が叫ばれている昨今、いい人材を採用するために、求人の条件をあげて募集を行うことや、人材紹介会社経由で人を採用する場合、求職者との年収交渉がよく起こります。

このときに、新卒一括採用の大企業であれば、初任給をあげる、といった対応がとられますが、中途採用が中心の企業では、求人の条件をひとまずあげることで人を採用します。

ここで問題になるのが、既存社員との給与のバランスです。

中途採用者は前職の年収をベースに給与額を決定することも多いため、入社1年目なのに、数年勤務している人とあまり差がない、または逆転してしまうようなことも発生することがあります。

会社の就業規則、賃金規程に照らし合わせると、整合性がとれなくなるようなことも発生します。

こんな時に、就業規則や賃金規程をどのように整備すればいいかについてもご案内致します。

就業規則の待遇と異なる条件で求人を出す場合の注意点

自社の就業規則と異なる待遇、条件で求人を出すとしたら、やはり給与面が考えられます。

給与面以外の例えば休日や働き方を既存社員とは異なる条件で募集をすることは既存社員の不満がたまり、離職などにもつながるため愚策です。やめておきましょう。

このパターンは例えば、在宅勤務やフレックスタイム制の導入、年間休日数の増加、といったことがあてはまります。

この場合は、既存社員を含めて就業規則改定し、既存社員と新規募集者を同じ条件で雇用することを考えた方がいいです。

では、現実的にありえる、給与面での待遇を、給与テーブルがある会社とない会社に分けて考えてみます。

 

(1)給与テーブルがある会社

給与テーブルがある会社では、既存の給与テーブルでのルールに当てはめた時に求職者の希望年収・希望月給と「合わない」場合は、その金額から逆算して等級や号俸を決定することが良く起こります。

この場合、ダメではないのですが、新しく採用する社員に下駄をはかせる(本来はもっと下の給料のはずが、最初から高めの給与を設定する)ことになります。

入社後に、順調に育てば問題にならないケースもありますが、逆に見込みが外れて、思っていたようなパフォーマンスではない、スキル不足、能力不足といった状況になると、給与とパフォーマンスで大きなギャップが生じることになります。こうなると、人事評価の仕組みの中で徐々に対応していくことになります。

 

(2)給与テーブルがない会社

給与テーブルがない会社の場合は、ある意味基本給なども自由に決めることができますので、自由に決めていいのですが、既に同様の仕事をしている人と入社初年度の人の基本給で逆転減少が起きると公平性を欠く給与制度になってしまいます。

そのため、極力基本給でアンバランスな差を生じないようにするには、何らかの諸手当にて対応する方が無難と言えます。

 

諸手当で対応する際には、調整給や調整手当といった項目で年収調整をすることが多いと言えます。

問題はこの調整給の取扱のルールをどうするか?です。

下駄をはかせることにはなりますので、毎年の昇給の度にこの調整給を無くすような仕組みにするのかどうか、また、調整給の無くし方などは検討事項となります。

求人票の条件と就業規則、個別契約での条件の差異について

労働条件を明示する書類として、以下の3つがあり、その3つで書かれている内容が異なっている場合にはどのような取り扱いが為されるかを考えてみます。

  1. 求人票の内容
  2. 就業規則の内容
  3. 個別の労働契約書の内容

まず、求人票の内容は、個々人に確定した労働条件ではなくあくまでも「労働契約の申し込みの誘引」をするための参考となる条件となります。

とはいえ、求職者、応募者としては、就業規則や個別契約の内容ではなく、あくまでも求人票の内容をもとに、応募をしてきますので求人票の内容が間違っている場合はトラブルになりますし、職業安定法上の虚偽記載として法令違反にもなります。

次に、求人票での内容と就業規則の内容が異なっており、就業規則の内容の方が待遇が良いケースを考えてみます。

このケースの場合は、就業規則の作り方や規定の仕方にもよります。

例えば、賞与について就業規則に「正社員は支給あり」という規定があったとします。

ここで、求人票での待遇が「賞与なし」となっている場合に、この求人票での募集形態が「正社員」としての募集なのか、「契約社員」としての募集なのかによっても変わってきます。

また、就業規則の整備においても、どのような社員区分が設定されており、契約社員という社員区分を設けるのであれば、契約社員用の就業規則が整備されているかによっても異なります。

トラブルの事例としては、就業規則に不備があり、求人票よりも就業規則の規定の方が待遇が良い場合、強制的に就業規則のルールが適用される場合もあります。

最後に、求人票で示した条件とは異なる条件で個別の労働契約を締結した場合を考えてみます。

この場合は、例えば求人条件として「**職としての経験3年以上(3年未満の人は応相談)」という条件で募集をしたとし、経験が2年の人が応募してきたとします。

この場合は、面接などの選考過程を通して、本人と給与を含めた交渉をし、本人と合意ができた場合は、求人票とは異なる条件で個別の契約を締結することがあり得ますし、法令違反ではありません。

ただし、条件を途中で変更する場合は、求職者がその変更内容を適切に理解できるような方法で行う必要があります。厚生労働省の指針としては以下2つが示されています。

①当初の明示と変更された後の内容を対照できる書面を交付する方法
②労働条件通知書において、変更された事項に下線を引いたり着色したりする方法や、脚注を付ける方法。

いずれにしても、口頭だけで行うのではなく、労使双方に誤解がないように書面で行うことが必要です。

 

求人票、就業規則、個別の労働契約書それぞれの内容で整合性がとれるようにしておきましょう。

そのためにも、就業規則の内容を実態にあったものにアップデートしておくことが重要です。

※就業規則と労働契約書の優位性については以下の記事でも解説しております。

就業規則と雇用契約書の関係性、優位性といったことや、両者を作成するうえでのポイントをご説明します。

ハローワークの求人票に年間数千件の苦情

近年、求人票の条件をめぐって採用に関するトラブルが増加しています。

特に、ハローワークで公開している求人票の記載内容が、実際の労働条件とかけ離れているという苦情が増えており、そのクレームの総数は年間で数千件を超えるような状態になっています。

(令和4年度:3,890件 ※ハローワーク調査資料より)

中小企業が社員を採用する場合の媒体の一つとして、無料媒体であるハローワークは根強い人気があります。

クレームやトラブルの原因としては、以下のようなものがあります。

(求人票に関するトラブル例)

  • 正社員の求人票であったのに、実際の契約は期間の定めのある有期契約社員であった。
  • 賃金の表記に固定残業代の記載がなかったのに、入社してみると賃金が残業代込の給与になっていた。
  • 求人票では、賞与支給が明記され面接でも支給を約束されていたのに、入社してみると賞与が出なかった。
  • 『あり』となっていた雇用保険、社会保険に加入させてもらえなかった

求人票はあくまでも労働条件の【目安】となるものです。

実際の労働条件はやはり労働契約書・雇用契約書に記載されたものとなります。

ただし、ここで労働契約書を作成していない場合には口頭での説明内容、または求人票の内容がそのまま契約内容になる可能性もあります。よって、グレーな部分となります。

応募者はその【目安】をもとに他社と比較したうえで、「よし!ここに応募しよう!」と決めて応募してきているわけです。よって、道義的には騙すような記載はダメです。

なお、事業者(会社)への法律上の制限は、職業安定法という法律によって定められています。

その中で、虚偽の広告又は虚偽の求人条件を提示して、労働者の募集をした者は6ヶ月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する、という定めがあります。

ただ、このあたりは何をもって虚偽とするのかは非常にグレーゾーンとなります。だからこそ、ブラック企業のブラックな求人によりクレームが後を絶たないわけです。

会社が社員を採用する際に、求人票と違う条件で採用する場合の現実的なリスクとしては、次のようなことが考えられます。

1、行政機関からの行政指導を受けてしまう

2、入社した社員がSNSなどで風評被害をぶちまける

3、せっかく入社した社員がすぐ辞めてしまう

 

会社としては、せっかく採用活動の経費・時間・手間を投資して社員を採用したのに、すぐに辞められては意味がありません。

ウソを書いたところでどうせ、入社後すぐにバレます。ありのままを求人票に書いて、募集をするという当たり前のことが、結局は会社に合う人を集めることにもなり会社にも、社員にも良い結果を生みます。

当然ですが、求人票は実態を記載しましょう。

良いことばかり書いておき求職者を集めても、残業時間が多い、仕事内容のプレッシャーが大きい、有給の消化率が低い等、会社には1社1社特徴があります。

「会社に合う人」を集めるのが、採用面でのマーケティングとなります。

就業場所と業務内容の変更の可能性は要注意!(法改正事項)

2024年4月からの法改正により、求人票の記載に関するルールが変更となり、以下の事項を明示することが追加されました。

①従事すべき業務の変更の範囲
②就業場所の変更の範囲
③有期労働契約を更新する場合の基準(※通算契約期間または更新回数の上限を含む)

 

③については雇用期間に定めがない正社員の場合は考える必要はありませんが、①と②は重要になります。

従来、日本の企業ではメンバーシップ型雇用といって、入社後の勤務地や業務内容は「なんでもあり」という契約になっていることが「当たり前」でした。

これは全国各地に支店や営業所がある企業の方がその傾向が強く、昭和の時代は全国転勤があるコースを「総合職」、転勤がないコースを「一般職」として同じ正社員であっても給与体系も違えば採用のルートも異なることが一般的でした。

その名残もあり、多くの就業規則には人事異動の規定があり、転勤や出向といった規定が盛り込まれており、多店舗展開する企業、他の支店がある企業では入社後は転勤があることがいわば正社員では「当たり前」でした。

ところが、昨今の人不足とワークライフバランスを重要視する社会情勢もあり、「転勤したくない」という人たちが増えてきています。

そうなると、求人募集においても、転勤があるのか、ないのか、ということや職務内容が入社後にどこまで変わる可能性があるかといったことは、今後の採用戦略において大きな要素となってきます。

なお、1店舗、または1つのオフィスしかないような企業であれば、就業場所については考える必要がありませんが、職務内容の変更の可能性が入社後、どこまでありえるのか、については企業規模によらず考えておく必要があります。

ここで、入社時点での職務内容が「変わらない」とするのが、専門職として採用する、ジョブ型雇用となります。

時代としては、欧米などと同じように日本もメンバーシップ型雇用から職務を限定する「ジョブ型雇用」へと舵をきりたい、という流れが大企業を中心に徐々にでてきています。

※ジョブ型雇用にする場合は、就業規則の内容も見なおしをすることをお勧めします。

若手を中心にして、就労意識も変わってきており、転勤や人事異動を行うことも難しい時代になってきています。

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